龍馬プロジェクト関東ブロック研修会 群馬県邑楽郡大泉町視察報告
【はじめに】
 この度、龍馬プロジェクト全国会の関東ブロック研修会に同行し、群馬県大泉町の多文化共生社会について視察を行ってきたので報告させていただきます。
 私の故郷でもある大泉町は、在日外国人、特に日系ブラジル人の人口率が日本一高い「日本のブラジル」として知られています。私は18歳で高校を卒業するまでこの町で暮らし、日系人の友人もいましたが、行政の視点から外国人社会について考えたことはほとんどありませんでした。今回様々な立場の人から話を伺い、情報として知っていることと、実際に現場を見ることは全く違うのだということを改めて気づかされました。そこで内容について広く周知したいと考え、ここにまとめさせていただきました。多文化共生や外国人移民政策に関心のある方々を始め、皆様に何らかの参考となれば幸いでございます。

【視察概要】
<日時>
平成29年1月30日(月)
<視察先>
1. 大泉町役場国際恊働課:多文化共生に関する行政の取り組みについて
2. 大泉警察署生活安全課:国際交流と地域活動および治安について
3. 観光協会副会長小野修一氏との対談:外国人の労働環境や社会保障について
4. NPO法人「NO BORDERS」:外国人の子供達に対する教育支援について

【視察内容】
1. 大泉町役場国際恊働課:多文化共生に関する行政の取り組みについて
<大泉町の概要>
 大泉町は群馬県の南東に位置する人口約4万人、面積18km2の小さな町です。昭和32年に小泉町と大川村が合併して誕生して以来(平成29年に60周年を迎えます)、工場誘致を積極的に推進し、北西に接する太田市同様に自動車産業・製造業が盛んな工業都市となりました。町内には富士重工(スバル)、三洋電機(現パナソニック)の工場があり、これらの下請け企業も多く、町内外から多くの労働者が働きに来ています。
<外国人労働者の受け入れの経緯>
 工業都市として発展してきたが故に、主に中小企業においては、いわゆる3K(きつい、危険、汚い)仕事を担う労働者の確保に苦心していました。もともとアジア系の不法就労者も多く雇用されていましたが、平成2年の入管法改正をきっかけに、南米系日系人の就労者が急増しました。昭和61年には222人だった外国人人口は平成に入ってから増加を続け、平成元年には623人、平成2年には1,315人、平成28年12月末には7,180人(総人口比率17%)を記録しており、平成16年から現在に至るまで外国人比率は15%以上を維持しています。内訳としてはブラジル国籍が最も多く総人口中の10%を占め、次いでペルー、ネパールと続きます。この3ヶ国で総人口の14%であり、全外国人の8割を占めます。その他、中国、フィリピン、ボリビア、ベトナムなど全52カ国の国籍者が定住しています。
 平成2年の入管法改正では、新たに日系三世まで就労制限のない定住者資格が認められました。これにより中南米諸国からの日系人の入国が容易となり、大泉町における外国人労働者の急増にもつながったと考えられます。これにはバブル景気を背景に安価な労働力の確保を望む経済界の意向と、当時、経済情勢が悪化し失業者が増加していたブラジル側の事情が合致したこともあったようです。しかしながら、来日当初は短期間の出稼ぎの予定であっても、母国の経済情勢の改善がみられないなどの理由で帰国が長引くことが多く、平成12年のアンケートでは日本滞在予定期間「3年未満」が18.6%に対し「未定」が66%と過半数を占めました。
 入管法改正から27年経過した現在、行政の姿勢としても、外国人労働者を「一時的な滞在者、お客さん」ではなく、「日本人と同様に町民としての義務を負う地域住民」と見なすように変わってきたそうです。しかし日本への滞在期間が長期化するに伴い、労働環境や社会保障制度に関わる問題、子供達への教育など様々な問題が表面化してきている、という印象を受けました。

2. 大泉警察署生活安全課:国際交流と地域活動および治安について
<警察署による主な多文化共生活動>
・ 110番イベント:警察への緊急通報方法の周知
・ 清掃活動などの交流イベント:地域住民との相互理解や防犯意識の醸成。
・ ブラジル人学校における防犯講話
・ 地域課員による巡回連絡
・ 外国人経営店舗に対する飲酒運転禁止等の注意喚起
警察署としては、日本人、外国人の別にかかわらず、地域の防犯・治安維持に努めているとの説明がありました。

3. 観光協会副会長小野修一氏との対談
 小野氏は社会労務福祉士として長年外国人の労働環境や社会保障について取り組んできた方で、現状の問題点を中心にお話を伺いました。
 小野氏の話によると、外国人労働者の雇用における一番の問題は企業がコンプライアンスを遵守していないこと。特に外国人労働者の社会保険について、社会保険料納付は企業の義務のはずですが、人件費のうち社会保険料は大きな負担であり、日本の制度をよく知らない外国人労働者なのをいいことに正規の納税が行われないケースがあるといいます。大泉町では外国人による税金の滞納が大きな問題となっていますが、そもそもの原因は雇う立場の企業が外国人労働者に日本の社会保障制度を理解させるための義務を果たしていないことだと指摘されていました。
 また外国人労働者の高齢化も大きな問題で、最初の世代はすでに50〜60代の高齢に達しており、製造業などへの就職は難しくなってきます。年金制度に加入していない人も多く、結果、生活保護に頼るという流れになってしまっているとのことです。外国人に対する生活保護支給も法的根拠はないため本来は認められないはずなのですが、大泉町でも窓口裁量で支給を続けている現状があるようです。生活保護受給世帯のうち、外国人世帯の割合は23.8%。これは、外国人世帯は離婚率が高く母子家庭となって受給することが多いことも原因の一つとのことでした。
 本来は国が受け入れ時にきちんと議論を行って法整備をしておくべきだったのでしょうが、安易に受け入れ推進してしまったが故に現在いろんな場面で歪みが生じていると感じます。生活保護にしても外国人がこれほど受給していると知ったら日本人は反感を抱くのではないでしょうか。しかし彼らが一方的に悪いという話でもなく、このような事態を長年許してきてしまったことについて、関心を向けず問題意識を持たなかったことを私たちも反省する必要があると思います。このケースでも外国人をむやみに攻撃したところで現状は何も変わりません。もちろん不正受給など問題点を正していくことは重要ですが、まず必要なのは私達一人一人が「自分も当事者である」という意識を持つことであり、誰かがやってくれるのを待つのではなく自分で動くという姿勢ではないかと感じました。

4. NPO法人「NO BORDERS」:外国人の子供達に対する教育支援について
 NO BORDERSは、町内の日系人が中心となり外国人の子供達への教育支援などを行っているNPO法人です。大泉町では全ての公立学校に外国人のための日本語学級を設置して対応していますが、日本語の勉強をしている時間は本来の授業内容を学ぶことができず、必然的に周囲の学習進行度から遅れていくことになります。そのためNO BORDERSではこのような子供達に対し放課後に補習や宿題の指導などを行っており、現在は38名の子供達が通っています。
 今回はスタッフの田中セルジオさんにお話を伺いました。NO BORDERSの活動のメインは子供達への学習指導ですが、目標は「バイリンガルの社会人をつくること」。言語は民族のアイデンティティであり、日本語とポルトガル語をしっかり身につけることで子供達に自分のアイデンティティを確立してほしいと語りました。日系三世のセルジオさん自身は日本生まれ日本育ちで、ポルトガル語も話せますが、「ルーツはブラジルだが心は日の丸」と流暢な日本語で話す姿が印象的でした。セルジオさんはもしブラジルと日本が争うことになったら日本について戦うといいます。生まれ育った日本とお世話になった日本人に感謝しているから当然の気持ちであるとのことでした。
 外国人定住者の多い自治体ではどうしても外国人だけのコミュニティができて日本人との関わりが希薄になり、それが時としてお互いの対立を生んでしまうものだと思っていましたが、大泉町における日系ブラジル人社会では、セルジオさんのような人物が中心となって日本社会に溶け込もうと努力している姿が伝わってきました。大泉町も最初から受け入れ体制を完備していたわけではなく、セルジオさんの祖父母や両親の世代は今よりももっと厳しい環境であったと思います。しかし、かつて日本人がブラジル移民として現地で勤勉に働き地位を確立していったように、外国人であってもその国のルールに従って馴染もうと努力してくれるなら、そのような人々を受け入れる素地を日本人は持っていますし、日本社会と協調して生きていくことは決して難しいことではありません。特に日系ブラジル人の場合は、行政の援助がなかったからこそ自分達で何とかしようという意識が自然と生まれ、それが今の世代にも受け継がれているのだろうと感じました。日本側からのサポートも状況に応じて必要ですが、過剰な援助は時に甘やかしにつながり、何かあれば国が助けてくれるという他力本願な精神を植え付けてしまいます(これは日本人も同様ですが)。手取り足取りお世話してお客さん扱いせずにできることは自分でやってもらい、その上でどうしても助けてほしい時にSOSを出せる環境を整えておくことが大事ではないかと思います。

【視察を終えて】
 大泉町は人口4万人の小さな町ですが、そこに7,000人もの外国人が暮らしているという事実を改めて目の当たりにし、生まれ育った町なのに本当のところを全く理解していなかったと反省してばかりでした。大泉町は出稼ぎの日系ブラジル人が多く、日本からのブラジル移民という歴史的経緯もあるので少し特殊な事例なのかもしれません。しかし今後労働移民受け入れを推進した場合、全国で大泉町のように外国人比率が急増する自治体が増えると予想されます。
 そもそも労働力が足りないからといって日本人の雇用を増やさず外国人労働者を受け入れるという発想は間違っていると思いますし、安くて使い捨てにできる労働力だと見なしているかのような対応は外国人のためにもならないと思います。期限付きで受け入れたとして、彼らが国に帰った後の働き口は?日本に住み続けたいという人達が出てきたらどう対応するのか?大泉町も後追いで対症療法するのがやっとという印象が拭えませんでしたし、安易に受け入れても結局お互いが不幸になるだけとしか思えません。
 私は安易な移民受け入れには反対であり、日本の社会保障制度を目当てにやってくるような外国人は排除すべきだと考えていますが、セルジオさんのように心から日本を愛している人なら是非積極的に日本社会の一員として働いてほしいと思います。一時的な出稼ぎではなく日本でずっと暮らす意思があるなら、まず日本国籍を持つ日本人と外国人とでは、負う義務も与えられる権利も異なることをしっかり理解してもらうことが必須だと考えます。これは外国人本人の身を守ることにもつながります。
 多文化共生というなら双方の努力が必要です。外国人にもその点をしっかり理解してもらった上で交流を継続していくことが、将来的には両国に恩恵をもたらすのではないかと思います。

【最後に】
 末筆となりましたが、ご協力いただきました大泉町の皆様、視察についてご助言いただいた伊藤純子市議および寺林様、そして視察の機会を与えてくださった龍馬プロジェクト全国会の神谷会長およびメンバーの皆様へ、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。
平成29年3月1日
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